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福岡地方裁判所 平成8年(わ)1230号 判決 1997年5月22日

被告人

1 氏名

中富元也

年齢

昭和三〇年一二月二四日生

本籍

福岡市東区箱崎一丁目二六番

住居

福岡市東区箱崎一丁目二六番一七号

職業

歯科医師

2 氏名

中富新也

年齢

昭和三二年八月一日生

本籍

福岡市東区箱崎一丁目二六番

住居

福岡市東区香住ヶ丘三丁目七番四一号

職業

歯科医師

検察官

民野健治

弁護人

辻本章(1の被告人、私選)、林桂一郎(主任)・塚田武司・永田一志(2の被告人、私選)

主文

被告人中富元也を懲役一年六か月及び罰金三〇〇〇万円に、被告人中富新也を懲役一年二か月及び罰金三〇〇〇万円に処する。

被告人両名において、その罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日換算した期間、その被告人を労役場に留置する。

被告人両名に対し、この裁判の確定した日から三年間、懲役刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人両名は、共謀の上、その実父中富義輝が平成六年一月二五日に死亡したことに基づく被告人両名の取得財産に係わる相続税を免れよう企て、被告人両名の正規の相続課税価格が六億七一一一万九〇〇〇円で、これに対する相続税額は二億三〇一五万八九〇〇円であったにもかかわらず、取得財産のうち無記名割引債券を除外した上、同年一〇月三一日、福岡市東区馬出一丁目八番一号所在の博多税務署において、同税務署長に対し、相続課税価格が一億九六二五万三〇〇〇円で、これに対する相続税額が二七四七万五五〇〇円である旨虚偽の相続税申告書を提出して、不正の行為により、右相続に係わる正規の相続税額との差額二億二六八万三四〇〇円を免れた。

(証拠)

一  被告人中富元也の公判供述、検察官調書(乙1)

一  被告人中富新也の公判供述、検察官調書(乙3)

一  中富奈穂美(甲11・12)、塀和秀隆(甲13)、末次和也(甲14)の検察官調書

一  脱税額計算書(甲1)、脱税額計算書説明資料(甲2)、相続税の申告書謄本(甲3)、査察官調査書(甲4ないし6)、除籍謄本(甲9)、電話聴取書(甲10)

(法令の適用)

罰条(被告人両名)

平成七年法律第九一号附則二条一項本文により、同法による改正前の刑法(以下、「改正前の刑法」という。)六〇条、相続税法六八条

刑種の選択(被告人両名)

懲役刑及び罰金刑を選択

労役場留置(被告人両名)

改正前の刑法一八条(金一〇万円を一日に換算)

執行猶予(被告人両名)

改正前の刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件のほ脱額は、二億円余りと高額であり、そのほ脱率も約八八パーセントと高率であって、犯情悪質と言わなければならない。本件は、被告人中富元也(以下、「被告人元也」という。)が被告人中富新也(以下、「被告人新也」という。)に脱税をもちかけたものであり、被告人元也の刑責は被告人新也に比して重いものがあるが、被告人新也の承諾なくしては、本件は成り立ち得なかったものであるから、被告人新也の刑責も軽視することはできない。そして、脱税が申告納税制度を採用している我が国の納税制度の根幹を揺るがしかねない悪質な犯行であることを考慮すると、被告人両名に対しては、厳しい社会的非難を免れない。

しかしながら、被告人両名は、本件相続税につき、修正申告の上、本税及び重加算税等を完納していること、被告人両名は反省の態度を表しており、両名とも歯科医師であって、これまで被告人元也に交通事故による罰金前科が一回あるのみで、その他には前科等がないこと、被告人両名の妻らが今後の監督を約束していることなど、被告人両名に有利に斟酌することのできる情状が認められるので、これらを総合考慮して、被告人両名に対し、懲役刑については今回に限り、その刑の執行を猶予するのが相当と判断して、主文のとおり量刑した。

(裁判官 陶山博生)

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